経済学を志した理由は、「社会をよりよく機能させるためにはどうしたら良いか」という強い問題意識を持っていたからだ。 フィリップ・コトラー 「マーケティングの日本と未来」 より

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マーケティングの大家 フィリップ・コトラー氏の最新刊。これまでの彼のマーケティング理論やマーケティングの進化が俯瞰的に触れられていて、日本人向けに書かれた日本への愛情溢れる一冊の備忘録です。残念ながらMarketing4.0の翻訳本ではありません。

「マーケティングの未来と日本」時代に先回りする戦略をどうつくるか? フリップ・コトラー(2017 KADOKAWA)

本書の一番の特質すべき点は、未だ日本で翻訳本が出版されていないMarketing4.0のエッセンスがわかりやすくまとめられていることでしょう。そして、マーケティングそのものの価値から、これまで出版してきた書籍執筆の背景、Marketing1.0からMarketing3.0に至るマーケティングの進化に加えて、個人の人生戦略、日本のビジネスや経営に求められることや、平和とマーケティング等が網羅されています。

Marketing4.0とは?

まずはじめに、Marketing4.0とは何か?私自身はこれまで、個人の自己実現のことであるという断片的な知識しか持ち合わせていませんでしたが、ソーシャルメディアの進展によって個人の意識も変化し、それに応じたマーケティングが必要であること、オンラインとオフラインが出会ったことも大きな外部環境の変化であると指摘しています。
コンシューマーがプロシューマになることは、確かアルビン・トフラーが述べていたことですが、マズローの欲求段階説を示し、ソーシャルメディア時代の自己実現の意味を説いています。

私たちはいまや、成功者のストーリーや、彼らが世界中で活躍している場面をいくらでも目にすることができる。ある人が一夜にしてYoutubeで有名になる、ということを知ってしまったのだ。他人よりも優れている部分を磨くことで、「世に知られるブランド」としてアピールが可能であることに、多くの人は気がついた。(中略)デジタル時代において、以前よりはるかに多くの人が自己実現に邁進していることを、マーケターは意識すべきなのだ。

アルファーブロガーやユーチューバー、インスタグラマー等、ソーシャルメディアが広く浸透したからこそ、誰もが成し得る個人のブランディング。マーケターはその変化をもっと着目すべきであると。

なぜいま「顧客エンゲージメント」か?


個人的にもとても興味深いセンテンスとして、なぜいま「顧客エンゲージメント」か?ということにも言及しています。これまでのCRMの課題を挙げ、その重要性を解説しています。

従来のCRMはロイヤリティが重視されたが、そのロイヤリティはリピート購買や累積購買額によって計測されたため、ポイント施策などの囲い込み先による「人為的なロイヤルティ」が横行し、「CRM=優良顧客優遇+囲い込み策」が定石となってしまった。 中略 「顧客エンゲージメント」はたんに購買だけではなく、どれだけ熱狂的に語ってくれているか、どれだけサイトに見て来てくれているか、ということもデジタルが可視化する。そうした意味ではMarketing4.0の登場も「顧客エンゲージメント」が重視されるもの、デジタル時代における必然といってよいだろう。

現在私が所属するエンゲージメント・ファーストでは、カスタマー・エンゲージメントを可視化し定量化するための手法をU'eyesデザイン社と一緒に開発をしています。少し前の分析では、カスタマー・エンゲージメントが高い企業は、他の同業他社と比較して、直近3ヵ年の売上伸び率との相関性が高いとの調査結果も出ています。昨年の日本マーケティング学会のポスターセッションにおいて、ベストポスター賞を頂いていますので、また別に機会に紹介したいと思います。

●日本マーケティング学会 ポスターセッション2016 / ベストポスター賞
http://www.j-mac.or.jp/prize/

ちなみに、コトラー氏がこれまでの自分の人生でもっとも影響を与えた一冊は、フロイトの「幻想の未来/文化への不満」との事。フロイトが提起したのは、「不満が高まりすぎないように文化を制御し、協力しながらよい社会を築けるだろうか」ソーシャルメディアが発展した社会で、心理学的知見と自己実現との関係性について考察を深めていかねばならないと述べています。フロイトの本は文庫本で手軽に入手できる様ですので、是非。

どの様な企業が顧客に「選ばれる」?

本書の中で、コトラー氏は、「Marketing4.0の時代」にどの様な企業が顧客に「選ばれる」のかについても言及しています。2003年にある研究者らが「親愛の企業:世界規模の企業はいかにして情熱と志から利益を得るか」(Firms of Endearment: How World-Class Companies Profit from Passion and Purpose)を出版していますが、その中で、「選ばれる企業」の8つの要素を紹介していますが、なかなか興味深い項目ですので、そのまま引用したいと思います。10年以上前の結果ではありますが、その内容は現代でも通用する、まさに顧客エンゲージメントと従業員エンゲージメントが高い次元で機能している企業と言えるでしょう。

1.すべてのステークホルダーの利益を一列に平等にしている。
2.管理職の給料が比較的控えめである。
3.経営トップに接するのに、オープンドアポリシー(社長室のドアをつねに開けておき、従業員がいつでも話しかけられる制度)をとっている。
4.従業員の給与が同じカテゴリーでは高く、従業員トレーニングも長く、離職率も低い。
5.顧客に対し、情熱的な人を雇う。
6.サプライヤーを真のパートナーと位置づけ、生産性向上、品質改善、コスト削減に協力する。
7.企業文化をもっとも大きな資産と考え、競争上の優位性の主要な源になると考えている。
8.マーケティングコストは同業者よりはるかに低いのに、顧客満足度と顧客維持度ははるかに高い。


おまけ:ボブ・ディランは望まない


ちなみに、最後の章で述べられる「平和とマーケティング」では、ボブ・ディランが紹介され、本書の結びとしていました。でも、ボブ・ディラン本人は象徴的な意味でのプロテスト・シンガーの称号を与えられるのは望まないでしょうね・・・

コトラー氏が唱えるMarketing理論の進化が手っ取り知ることができて、Marketing4.0のエッセンスを学べるおススメの一冊です。




ジークムント フロイト
光文社
2007-09-06


Rajendra S. Wolfe, David B. Sheth, Jagdish N. Sisodia
Pearson Prentice Hall
2007-01-31